KAMA-ASA Journal
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つくる人のはなし #06 イオリプロダクツ【釜浅の割烹着・Tabi Trainer for KAMA-ASA】

つくる人のはなし #06 イオリプロダクツ【釜浅の割烹着・Tabi Trainer for KAMA-ASA】
釜浅商店では鍋や包丁などの料理道具以外にも、調理の現場に必要な小物やアパレルなどのオリジナル製品をつくってきました。その中でも人気のファブリックアイテムを一緒につくってきたのが、2020年に岡山県岡山市で創業したイオリプロダクツの越智輝佳さんです。今回は、店主の熊澤大介が「釜浅の割烹着」釜浅別注tabito「Tabi Trainer for KAMA-ASA」の発売に先立ち、2023年にオープンしたという越智さんのアトリエを訪問。また、アパレル製品を製造する有限会社アクティブと、スニーカーを製造する岡本製甲株式会社で、ものづくりの現場を視察しました。
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釜浅商店 熊澤大介
釜浅商店4代目店主 熊澤 大介 / Daisuke Kumazawa
TOPICS

つくる人イオリプロダクツ

イオリプロダクツ・越智輝佳氏とアトリエ外観
株式会社ジョンブルから独立した越智輝佳さんが2020年(令和2年)にスタート。「性別・年齢にとらわれることのない時代に合わせた進化するものづくり」をコンセプトに掲げ、“Wear” “FootWear” “Uniform”の3カテゴリーのプロダクトを日本国内で製造している。2023年に岡山市にショールーム「atelier iori products」をオープン。
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TOPICS 01最初のファブリックグッズは釜浅スタッフのリクエストを詰め込んだエプロン

料理のプロフェッショナルはもちろん、一般の料理愛好家のみなさんにとっても必要不可欠なもののひとつが、エプロンやナイフロールなどのファブリックグッズ。釜浅商店でもこれまで数種類のオリジナル製品を開発してきました。そんなアイテムに、このたび「釜浅の割烹着」が仲間入り。さらに今回は、立ち仕事をする料理人たちの足元をしっかり支えつつ、オフのシーンでも活躍するスタイリッシュなシューズ「釜浅商店別注tabitoスニーカー」もラインナップに加わりました。

釜浅商店と越智さんとのお付き合いは、越智さんが国産ジーンズ発祥の地である倉敷市児島に拠点を構えるアパレルメーカー、株式会社ジョンブルに在籍していた2017年にスタート。最初につくったのはエプロンでした。

釜浅商店4代目店主・熊澤大介(左)とイオリプロダクツ・越智輝佳さん(右)

熊澤
2011年のリブランディングの時にエプロンを揃えたんですが、これは大手ユニフォームメーカーのカタログから選んだサロン型のものでした。でも、うちは物を持ったり運んだりすることも多いから、胸のあたりが汚れるし、包丁のバリを取ったら3週間くらいで穴が開いちゃうしで、なんとなくずっとモヤモヤしていたんですよね。それで、うちのPRをやっている出口はるさんに「オリジナルのエプロンを国産で作りたい」って話したんです。そしたら、「ジョンブルはデニムのアパレルメーカーだけれど、ユニフォーム事業もやっている」といって、当時の社長だった北川敬博さんを紹介してくれて。

越智さん
そうでしたね。それで、2017年7月に北川さんが原宿のショールームで熊澤さんに会うということになり、会議でたまたま東京にいた僕も同行したんです。当時、ユニフォームのデザイナーが入院中だったので、僕はデザイナーじゃなかったんですけどその打ち合わせに参加して、結局デザインも担当することになったんです。打ち合わせの前日には合羽橋の店にも黙って行きました。どんな店なのか見ておかないと、どういうものを提案したらいいのかわからないじゃないですか。

研ぎ師エプロンでバリをとるスタッフ

越智さんとの協働のきっかけとなった「研ぎ師エプロン」。

熊澤
お店に来てくださってたんですね! それは知らなかった。でも、越智さんはデザイナーではなかったにもかかわらず、僕たちのやりたいことを理解して、いろいろ提案してくれました。越智さん、最初は営業職だったんでしたっけ。

アトリエで取材中のイオリプロダクツ・越智輝佳さん

独立後はデザインから営業まで、仕事は基本的に一人で行っている。「たまに奥さんが手伝ってくれますけど、全部自分でやりたいタイプ。自分の手を離れていくのが性格上無理なんですよね(笑)」と越智さん。

越智さん
営業職でジョンブルに入社して、その後マーチャンダイザーをしていたんです。デザイナーと一緒に仕事をする人間ですね。だから、デザインはすべて独学なんですよ。それにしても、熊澤さんたちからはものすごくたくさん要望があったんです。釜浅のスタッフはなんでもポケットに入れたい人たちだから、メジャーも入れたい、電卓も入れたいで大変だったんですよ。A、B、Cと3種類のサンプルを作ったのが9月くらい。

熊澤
そうでした。その後、うちが作るならかっこいいだけじゃだめで、何か意味のあるものを作らないとというのもありました。そしたら、包丁のスタッフから「デニムでバリが取れたら嬉しいかも」という声が上がって、それはいいなと。最終的にはスタッフ用だけじゃなく、一般のお客様にも販売しようということになり、2018年1月9日に発売しました。

越智さん
最初のうちはそんなに売れなかったんですよね。年に1回の納品だったから。でも今は年に3〜4回は納品しています。

 

TOPICS 02道具を大事に使い続ける考え方を製品づくりに反映

熊澤
エプロンがすごくよかったので、他にもいろいろお願いしたいね、という話になり、次にお願いしたのが合羽橋の店の暖簾でしたね。

越智さん
そうです。当時も素敵な暖簾だったんだけど、結構ボロボロになっていて、和田(洋一。ゼネラルマネージャー)さんに「暖簾って作れますかね?」って言われたんじゃなかったかな。僕らも作ったことはなかったけれど、「できるんじゃないですかね」と(笑)。ブラックデニムで作ったら、気に入っていただけて、その後パリ店の暖簾も依頼していただきました。暖簾でいえば2025年にオープンしたブルックリン店も作りましたね。こちらはデニムではなく麻ですが。

イオリプロダクツが手がけた釜浅商店 合羽橋店の暖簾

合羽橋店の暖簾。ブラックデニム製なので、使い込むほどに味わいが増す。

熊澤
暖簾って風雨にも晒されるから傷むけれど、デニム、それも児島のデニムだったらどんどん味が出てくるじゃないですか。道具を使い込んで育てていくという釜浅商店の考え方にも合うし、すごくいいんじゃないのかなって思って。エプロンも修理をお願いしたりしています。

越智さん
僕自身、アパレルの消費サイクルに疑問を持ち始めた頃だったんですけど、それはユニフォームで携わっている人たちに勉強させてもらったと思っています。みなさん、道具を大事にするじゃないですか。

釜浅商店 合羽橋店包丁売場の暖簾

熊澤
同じ頃、包丁担当から「包丁巻きが欲しい」という意見も出て、2018年11月には「釜浅のデニムナイフロール」も発売しました。うちで出しているものは、全部現場の声から生まれているものなんです。なんかかっこいいからやっちゃおうぜ、じゃなくて、必要の中から生まれてくるというのが基本。その後にはミトンとエコバッグもありました。その次が「釜浅のワークコート」。

越智さん
あれをやったのは2020年のコロナ禍だったので、本当によく覚えてます。緊急事態宣言の後、たぶん5月か6月に「冬服のユニフォームを作れないんですか」という依頼があって。僕は2019年いっぱいでジョンブルから独立してイオリプロダクツを立ち上げているんですけど、それからすぐに緊急事態宣言が出たので、時間に余裕があったんですよ。だから、連絡をいただけたのがものすごく嬉しくて。これは完全なるユニフォームと決まっていたので、すぐに作って。そしたら、釜浅あるあるで、やっぱり2022年から売るようになるんですよね(笑)。

釜浅のデニムワークコートを着用する釜浅スタッフ

カバーオール型で「釜浅のワークコート」。カバーオールタイプで街着として活躍する。

熊澤
そうそう(笑)。でも、ユニフォームができて、より統一感が出たのが嬉しかった。実はリブランディングした頃からユニフォームは作りたかったんですよ。でも、長袖だと動きづらいかなとか、 コストもかかるよな、でもありものを着るっていうのはないかなとか、モヤモヤしながらやってきた。でも、今なら越智さんっていう心強いパートナーがいるからユニフォームもできるな、と思って。

越智さん
熊澤さんにとっても、ユニフォームを作るというのは結構英断だったと思うんですよね。ただ、エプロンもワークコートも、修理しながらものすごく長く使っていただける。釜浅のものは、熊澤さんたちが自信を持って世に送り出せるものだけなんです。釜浅の人たちは、ちょっとしたところでも改善して使い勝手が良くなるなら改善しようとか、そういう考えを持っている。僕はそういう意見を、ファッション的な視点を入れて少しだけデザイン寄りにする作業をしているだけ。だから、どの製品も中身を作っているのは釜浅のみなさんなんですよ。

釜浅のデニムワークコートを着用する釜浅スタッフ

越智さんの実家のある玉野市の宇野港そばでコーヒーブレイク。直島行きのフェリーもここから出航する。「最近は地元岡山の仕事が増えてきました。直島の旅館のユニフォームの仕事などもしています」と越智さん。

熊澤
そう言っていただけるのは本当に嬉しい。それに、僕はもともと洋服の仕事をしたかったから、ちょっと職権濫用みたいになっちゃうけど(笑)、今はぼんやりと「こんな感じのものが作りたい」と伝えると、越智さんが形にしてくれる。最高ですよ。出来上がってきたものは当然、格好もいいし使い勝手もいい。それを着ることによって、うちの社員たちもより自信と誇りを持てるようになる。そういう意味でもすごく感謝しているんです。

越智さん
縫製をお願いしているのは、釜浅の他のファブリックグッズもお願いしている倉敷市児島の有限会社アクティブ。自分の仕事のほとんどはアクティブにお願いしていて、あとはもう1社しか使っていないのですが、実はどちらの会社もジョンブル時代にはお付き合いがなかった会社なんです。アクティブは他の工場と違って、ものすごくできる品目が多いんですよ。しかも、大変な仕事も断らず、面白がって付き合ってくれる。担当の藤岡さんのことは本当に信頼しています。

熊澤
今回、アクティブさんの工場も見学させていただきましたが、生地の裁断から縫製、アイロンまで、すべての工程が手仕事で丁寧に行われていて感動しました。

海外から岡山へ来て、アパレル製品を製造する有限会社アクティブで実習生として活躍する職人さん

「釜浅のトートバッグ」を縫製中のこの女性はなんでもできる超優秀な職人さん。研修期間を経て、現在はアクティブの実習生としても活躍中。

ノミを使い、手でデニム生地の裁断に挑戦する釜浅商店4代目店主・熊澤大介とレクチャーしてくれた株式会社アクティブの職人さん

アクティブの工場で、デニム生地の裁断に挑戦する熊澤。布裁断用のノミは「研ぎたてだと指で触っただけで切れてしまうほど」の切れ味だが、手ノミで裁断する工場は今ではほとんどないのだそう。「ノミを作れる職人さんも、ノミの研ぎ師さんもいなくなっています」と話すのは15年選手の職人さん。

 

TOPICS 03焼き鳥店の意見を取り入れてつくった新製品「釜浅の割烹着」

ノミを使い、手でデニム生地の裁断に挑戦する釜浅商店4代目店主・熊澤大介とレクチャーしてくれた株式会社アクティブの職人さん

ボタンのある方を前にした「釜浅の割烹着」。後ろ前にすれば通常の割烹着のように使える。

ファブリックアイテムの新作として登場する割烹着のアイデアは、熊澤がずっと温めてきたもの。今回、満を持しての製品化となりました。

熊澤
割烹着って機能的じゃないですか。でもデザイン的には良くないものしかない(笑)。だから、きちっとデザインが入っていて、釜浅らしいものができれば最高だなと思ったわけです。そんな時に、割烹着を着ている知り合いの焼き鳥屋さんの夫婦に話を聞いたら、「串を打ったり、焼いたりする時に、肘が擦れて脇の部分が破れちゃうんです」っていうんですよね。なるほど、そんなことがあるんだ、って、その時に初めて知って。困っている人がいるなら作りたい。それで今回、遂に製品化することにしたんです。

アトリエで割烹着のサンプルを試着するイオリプロダクツ・越智輝佳さん

割烹着のサンプルを試着中の越智さん。ボタンを後ろ側にした、いわゆる割烹着スタイルで着用している。

越智さん
機能面はいろいろ盛り込みましたよね。脇が破れる問題は、当て布をすれば解決するかもしれないけれど、それだと可愛くないのでポケットにしたり。しかも脇にポケットを付けたことが、前後どちらでも使えるデザインにすることで意味を持った。

熊澤
ラウンドネック側を前にすれば普通の割烹着のような感じだし、ボタン側を前にすれば買い出しに行く時に着ていても違和感がないうえ、カフェのユニフォーム的にも使える。これはいいアイデアでしたよね。あと、手首にゴムを入れるのはどうしても嫌だったので、ロールアップしてボタンで留める形にしてもらいました。

越智さん
こだわりはいろいろあるけれど、道具を傷つけにくいようにくるみボタンにしたのもそのひとつ。くるみボタンのスナップボタンって世の中にあまりないんですよ。また、スナップボタンは敢えて緩めの留め具合のものにしています。布が引っ張られて破れないように、外しやすいものにしているんです。

 

TOPICS 04「tabito」の足袋シューズをアレンジした釜浅別注tabito「Tabi Trainer for KAMA-ASA」

イオリプロダクツが手掛けるフットウェアブランド「tabito」の釜浅別注カラー

釜浅カラーのブラックでまとめた釜浅別注tabito「Tabi Trainer for KAMA-ASA」。

一方、スニーカーは越智さんからの提案から実現。イオリプロダクツが手がける足袋シューズのブランド「tabito」のローカットスニーカーをベースに、アッパーにはエプロンやワークコートにと同じブラックデニムとベロア生地を採用、釜浅商店らしい仕上げとなっています。親指とその他の指が離れた構造になっているため、足指でしっかりと地面を捉えられ、長時間の歩行や立ち仕事でも疲れにくいのが特徴。タウンユースにも、また料理人やホールスタッフなど長時間立ち仕事をする人にもぴったりです。

熊澤
「tabito」のスニーカーの履き心地の良さは多くの方がご存知なので、それを釜浅カラーで作ってもらうことにしたという感じです。

「tabito」のスニーカーを製造している岡本製甲の職人さん。

「tabito」のスニーカーを製造している岡本製甲の職人。「ワニ」と呼ばれる道具でアッパーをソールに沿わせて貼り込んでいく。

イオリプロダクツ・越智輝佳さんと手前は「tabito」のスニーカーを製造している岡山の岡本製甲の岡本社長

手前は岡本製甲の岡本陽一社長。足袋シューズに惚れ込み岡本製甲への転職も考えたという越智さんに、社長は「自分でやったら?」と提案。それが、アパレルも靴もユニフォームもやるというイオリプロダクツの独自のスタイルに繋がった。

熊澤
ところで、「tabito」のネーミングは足袋シューズから?

越智さん
足袋シューズと思われるけれど、実は「旅とともに」からきているんです。旅の時って足元が絶対大事だから、この靴と一緒に快適な旅行をしてほしいという思いを込めたというか。このシューズを作ってくれている岡本製甲さんは足の健康への取り組みでずっと注目されているけれど、僕は「tabito」を立ち上げた時、健康というワードを使いたくなかったんですよ。僕はやっぱりファッションの人だから、ファッショナブルなものとして履いたら実は足の健康にも繋がるんだ、みたいな順番にしたいと思っていた時期がありました。ユニフォームも同じで、あくまでかっこよくないと。かっこいいけれど、実はすごく品質がよくて何年も使えるぞ、みたいなのを目指しています。

熊澤
すごくよくわかります! 日常生活を豊かに送れるものづくりをするという越智さんの考え方にも共感しますね。

atelier iori productsに並ぶ「tabito」のシューズ各種

atelier iori productsに並ぶ「tabito」のシューズ各種。

熊澤
ところで、今は通常のアパレルラインとシューズ、それにユニフォームのバランスはどうなっているんですか?

越智さん
今はユニフォームがかなり多いです。クライアントがどんどん増えてきているので、5割ユニフォーム、4割がシューズ、残りの1割がアパレルかな。ユニフォームは特に営業はしていないんですが、ありがたいことに口コミとか紹介で広がっていっているという感じです。

熊澤
越智さんが手がけられたユニフォームって、「あ、これ越智さんだろうな」ってわかるんですよね。そうすると、それを着ているのは全然知らない人なのに、親戚に会ったみたいな気分になっちゃったりするし、自分たちも同じ仲間に属していることに喜びを感じたりもしちゃうんです。今回は他にも、アパレル製造で余った生地を再利用した「釜浅のトートバッグ」も同時発売されますし、ミトンやエプロンのリニューアルをはじめ、引き続きいろいろお願いしていくことになりますが、どうぞよろしくお願いします!

イオリプロダクツ・越智輝佳さん(左)と釜浅商店 四代目店主・熊澤大介(右)。atelier iori productsの前にて。

atelier iori productsの前で。今後は一部をスタジオとして貸し出したりもするそう。

釜浅商店 熊澤大介
釜浅商店 4代目店主 熊澤 大介 / Daisuke Kumazawa
1974年東京・浅草生まれ。アンティーク店「パンタグリュエル」(東京・恵比寿)、家具・カフェ「オーガニックデザイン」(東京・中目黒)を経て、家業である東京・合羽橋の釜浅商店に1999年入社。2004年より4代目店主に。創業103年の2011年に店のリブランディングを行う。良い理(ことわり)のある道具=「良理道具」を多くの人に伝えようと、道具たちとの幸福な出会いの場を国内外で提供する。

 

執筆・編集:山下紫陽 撮影:釜浅商店