KAMA-ASA Journal
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炭火焼ゆうじの看板
1991年に渋谷・宇田川町にオープンして以来、32年にわたって愛され続けてきた焼肉店「炭火焼 ゆうじ」。釜浅商店とは2011年にご主人の樋口裕師さんとともにオリジナル炭火焼きロースター「YK-T」を共同開発したという、深いご縁のある店でもあります。今回は熊澤が「ゆうじ」を訪ね、店頭での「YK-T」の活躍ぶりを拝見してきました。
熊澤 大介
釜浅商店4代目店主熊澤 大介/Daisuke Kumazawa

「炭火焼 ゆうじ」が使う道具「YK-T」

YK-Tの写真 
本当に「うまい!」と震える焼肉のために
日本中の焼肉店を巡り、「うまい! なんだこれは?」と思える焼肉と焼き台の相関関係に気づいたという樋口さん。焼肉道を極める中で、究極的にうまい肉を焼くためにはベストなロースターを自分で作るしかない、という結論に至ったそうです。
そんなわけで、釜浅商店にご相談いただいたのが2010年頃のこと。そこから約1年試作を重ねた末に出来上がったのが「YK-T」でした。以来、10数年にわたって焼肉店はもちろん、一般のご家庭でも愛され続けてきたベストセラーです。
愛着メモ
  • ロースターの写真
    POINT 012種類の網が使い分けられる
    このロースターの最大のポイントは、「肉によって網を変えられる」こと。蓄熱性が高くサッと肉の表面を焼ける鋳物網と、炭火の遠赤外線の熱をそのままホルモンに届け、脂を下に落とすという利点もあるステンレス網を両方使えるようにしたことで、1台でどんな種類の肉も美味しく焼けるように。
  • YK-Tの写真
    POINT 02装飾を排除した、洗練されたデザイン
    美味しく食べるための機能を徹底させると、美味しさを感じさせるデザインになる。「無駄を排除した洗練されたプロダクト」は樋口さんのこだわり。ゆうじではオリジナルプレート(シリアルナンバー入り)が付いているものを使っている。
  • YK-Tで肉を焼いている
    POINT 03誰もが使える安全性の高さ
    厨房の中ではなく、お客様がテーブルで使うものだから、安全性には十二分に配慮。最初の試作品はテスト中にテーブルが焦げてしまうほど本体が熱くなってしまったが、試作を繰り返すことで誰でも安心して使えるものに。

釜浅商店との商品開発

 

「ゆうじ」を始めた時から、料理道具を探しに合羽橋には足を運んでいたという樋口さん。釜浅にも10年以上前から来ていただいており、店内をぐるぐる回っては、頭の中にぼんやりと浮かんでいた「こういう道具が欲しい」という気持ちにピタッと合致する商品を購入してくださっていたといいます。

そんな樋口さんはある時「料理を進化させるために現場で苦しむ料理人たちが、本当に自分が必要とするものを手に入れたいのであれば、あるものを買うのではなく、欲しいものを作ることが重要なのかも」ということに気づいたそう。そこで熊澤に声をかけてくださったことが、「YK-T」の開発に結びつきました。 

 

炭火焼ゆうじ 樋口さんの写真

日本中の焼肉店を食べ歩き、「うまい!」と叫びたくなる美味しい焼肉の条件は何かを求め続けた樋口さん。

 

樋口さんが日本中の焼肉屋を食べ歩く中で気づいたのが、肉・タレ・カットといった様々な要素の中で、ロースターこそが焼肉の美味しさを決める最大のキーパーソンであること。「焼き台を見れば、その店の基本的な立ち位置が見える」といいます。

本当に味わい深い店は、昔ながらの七輪や、他では見たことのないオリジナルのロースターで、みんなが煙にまみれながら肉を焼いている。そこで、熱源として最良なのはガスではなく、炭火だという結論に至ったのだそうです。 

 

炭火の写真

肉やホルモンを美味しく焼き上げる、炭火の遠赤外線。肉汁がジュワッと口の中でほとばしる。

 

木炭は燃焼する際に遠赤外線と呼ばれる電磁波を発します。この遠赤外線は風などの影響を受けず、物質に直接熱を届けることができます。ガス火の熱は物質を通過しないため、薄い肉を焼く時にはいいけれど、厚いものを焼くのは難しい。火が強いと外が焦げて中は生焼けになるし、弱火で時間をかけて焼くと、肉の水分がどんどん抜けてしまいます。

このことから樋口さんは、ホルモンなどは効率よく熱を通し、脂も適度に落としながら焼くために網を、薄切りの肉を焼く時には250300度に熱せられた鋳物網を、と使い分けることがベストと考えました。

 

「YK-T」でホルモンを焼いている

熊澤 大介が肉を焼いている

「12年経ってもこうして使い続けていただけているのは喜びの極み。樋口さんとのあの日々のおかげで今の釜浅があります」と熊澤。

「樋口さんから伺ったお話にはすごく納得するところがあって、世の中にない? それなら作りましょう、となった。一番のポイントは網が2種類使い分けられること。言ってみればそれが最大かつすべてなんですけど」(熊澤)。

早速、樋口さんの強いリクエストでもある「道具に徹し、装飾を一切排除したステンレス製のロースター」のたたき台を作ってテストを開始しました。

 

YK-Tの写真

 

「見た目に関しては僕も機能重視でステンレスの無骨なロースターがいいと思っていましたので、外観は早い段階で『いいね』と言っていただきました。ところが、その後は何度も試作、また試作。お客様にテーブルでお使いいただくものですから、万が一お客様が触ってやけどをしてしまったら大変です。それでも、最初は本体が熱くなりすぎてしまったりもしました」(熊澤)。

 

風窓をつけるのをやめ、代わりに穴を開けることにしたものの、開ける高さによって温度が大きく変わるので、試作を繰り返したといいます。

 

熊澤 大介の写真

「樋口さんには『道具のデザインが野暮ったかったらダメ』と言われましたが、僕も同じように考えていました」と振り返る熊澤。

 

「試作ができたら使っていただき、フィードバックしてもらう。わからないことだらけで、それでも『きっとこうなんだろうな』と、少しずつ改良を加えていきました」そう話す熊澤。

最終的に納品するまでに1年くらいかかりましたが、「すごく刺激的で勉強になる開発過程でした。あの期間があったことが、今の釜浅らしさが生まれた気がします」。

「炭火焼 ゆうじ」のために開発したこのロースターを、なんとか釜浅商店でも販売させてほしいと考えた熊澤は、完成が近づいた頃に樋口さんに無理を承知で依頼。最終的には「焼肉界全体のためになるから」と承諾していただきました。

 

炭火焼 ゆうじのロゴ

 

「YK-T」はスポーツカー!?

 

誰もが美味しく肉やホルモンを焼けるように。そんな想いから出来上がった「YK-T」。完成から12年、「ゆうじ」では日々、最高の美味しさに人々が喜びの声を上げています。

一方、釜浅の店頭でも「YK-T」はロングセラーに。熊澤は「『ゆうじ』で使われているという信用も大きいけれど、見た目に惹かれて買ってくださっている方も多いようです」と話します。

 

YK-Tで肉を焼いている

 

面白いことに、樋口さんは熊澤に「『YK-T』は時速300km出せるスポーツカーと同じ。本当の能力がわかって乗りこなしている人は2割くらいだけど、それでいいんです」と話したそうです。

 

焼きしゃぶしゃぶの写真

鋳物網でサッと焼き、大根おろしの入った生卵につけていただく「焼きしゃぶしゃぶ」。口の中でとろけるような、圧倒的なうまさ。

 

実は、「YK-T」という名前にも、共に熱烈なクルマ好きの樋口さんと熊澤のこだわりが。

Yは『ゆうじ』のYKは釜浅のKなんですが、じゃあTは何かというと、初期型のポルシェ911、『911T』(19677月に発売された名車)のTなんです。つまり、YK1号機という意味。ただ、今のところモデルチェンジはしていないんですけどね(笑)。樋口さんも僕もポルシェが大好きなんです」と熊澤は嬉しそうに話します。

 

炭火焼 ゆうじ 店内写真

「ゆうじ」の店内。先代の頃から使っているというテーブルの天板の中央部には、焦げ防止のステンレス板が貼られている。

今後、「YK-T」がポルシェ911Tが911E、911S、911RSとマイナーチェンジを繰り返したように発展していくことはあるのでしょうか?実は「ゆうじ」的にはまだアイデアがあるそう。

釜浅としても、新しい挑戦に身の引き締まる思いです。

 

肉を焼いている

炭火焼 ゆうじの外観

 

炭火焼 ゆうじ

住所:東京都渋谷区宇田川町11-1 松沼ビル1F
電話番号:03-3464-6448
営業時間:16:00~23:00(L.O.22:30)
定休日:日曜日/祝日

 

PRODUCTS  

    熊澤 大介の写真
    釜浅商店4代目店主
    熊澤 大介/Daisuke Kumazawa
    1974年東京・浅草生まれ。アンティーク店「パンタグリュエル」(東京・恵比寿)、家具・カフェ「オーガニックデザイン」(東京・中目黒)を経て、家業である東京・合羽橋の釜浅商店に1999年入社。2004年より4代目店主に。創業103年の2011年に店のリブランディングを行う。良い理(ことわり)のある道具=「良理道具」を多くの人に伝えようと、道具たちとの幸福な出会いの場を国内外で提供する。