釜浅ジャーナル
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店主の手帖#1 【二葉】(浅草)

店主の手帖#1 【二葉】(浅草)
創業明治四十一年 合羽橋の料理道具専門店 釜浅商店 四代目店主・熊澤大介が、東京の飲食店はもちろん、国内外の旅先で訪れた場所で感じたことのあれこれ、「食」を愛するものとして日々の活動を綴る手帖です。
熊澤 大介の写真
釜浅商店4代目店主熊澤 大介/Daisuke Kumazawa

祖父との思い出の味“釜めし”

「店主の手帖」はじまりは“釜めし”のはなしから始めたいと思う。
なぜなら、釜めしは釜浅商店二代目で僕の祖父、熊澤太郎が考案したからだ。と言い切ってしまってよいのか、いささか不安が無い訳ではないが、幼い頃から幾度となく祖父からその話を聞いてきたので、少なくとも僕はそう信じている。

洒落者だった祖父の話によると、ある時、行きつけの居酒屋『浅草二葉』でいつものように飲んでいると、ふと締めにご飯ものを食べたくなった。しかし、ただの一膳飯では味気ないので、1人のためだけに1人分のご飯を炊いて提供することを思いつき、二葉の主人と一緒に考えた、とのこと。
当時、1人分、約一合炊きの釜はなかったので、その釜も作った。その際、見た目的に格好良くするためにツバ上の立ち上がりを高くデザインし、そしてそのまま客席に提供するのに何か良い方法はないかと考え、升をひっくり返し底に丸い穴をくり抜き袴にした、というのが毎度祖父から聞かされてきた一連の話だ。
「1人のためだけに」というあたりがいかにも洒落ていて遊び心があり祖父らしいな、と思え僕自身この話を信じる1番の所以となっている。

先日、久々にこの釜めしが恋しくなり二葉へうかがった。釜めしはあくまで締めのご飯、いきなりそれを注文するなどの野暮なことはしない。
まずは、刺身数種、そして焼鳥、ビールから始まった肴の相棒はクラシックな辛口の日本酒に。そしてこのあたりで、いよいよ釜めしを注文。釜めしは数種類あるが僕はいつも貝柱の釜めし、シンプルだけど味わい深く酒にも良くあう。カレイの唐揚げを食べ終わる頃にはちょうど炊き立ての釜めしが、貝柱の良い香りと共にやってくる。

でも、まだ焦って蓋をあけてはいけない。子供の頃いつもこれを祖父、父に注意された。暫く蒸らさないといけないからと。
きっと提供される時には食べ頃になっているのだと思うのだが、つい今でもそうしてしまう。

数分たって蓋をあけ、しゃもじで底から返すと香ばしいおこげが食欲をそそる。一粒一粒出汁の旨味を良く吸ったお米は程よく歯ごたえがあり、酒呑の心をぐっと鷲掴みにする。
至福の時、
ありがとう、おじいちゃん。

 

浅草 二葉

住所:東京都台東区浅草1-6-4
電話番号:03-3841-5354
営業時間:16:00~21:30(LO21:00)
定休日:木曜日

熊澤 大介の写真
釜浅商店4代目店主
熊澤 大介/Daisuke Kumazawa
1974年東京・浅草生まれ。アンティーク店「パンタグリュエル」(東京・恵比寿)、家具・カフェ「オーガニックデザイン」(東京・中目黒)を経て、家業である東京・合羽橋の釜浅商店に1999年入社。2004年より4代目店主に。創業103年の2011年に店のリブランディングを行う。良い理(ことわり)のある道具=「良理道具」を多くの人に伝えようと、道具たちとの幸福な出会いの場を国内外で提供する。