釜浅ジャーナル
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使う人のはなし #01【uguisu/organ】

紺野 真さんの横顔の写真
三軒茶屋「uguisu」、西荻窪「organ」のオーナーシェフであり、2023年11月からは麻布台ヒルズにオープンするレストラン「ORby」ではディレクションとヘッドシェフを務める紺野真さんは、「uguisu」オープン時からの釜浅商店のお客様。鉄打出しフライパンや和包丁など、さまざまな道具をご愛用いただいている紺野さんに、店主の熊澤がお話を伺ってきました。
熊澤 大介の写真
釜浅商店4代目店主熊澤 大介/Daisuke Kumazawa

「紺野 真さん」が使う道具「和包丁」

2本の和包丁 
味や仕上がりが全く違います。
和食の料理人の方を中心にご愛用いただいている和包丁。「両刃」の洋包丁に対し、「片刃」で、食材の繊維を傷つけずに美しい断面を作り出すのが和包丁の特徴です。釜浅商店では食材や調理方法に合わせて、さまざまな種類やサイズの和包丁を取り揃えています。紺野さんは柳刃、出刃、切付を使われています。
愛着メモ
  • 刺身を引く柳刃包丁
    POINT 01味や仕上がりに変化をもたらす切れ味
    刺身を引くのにぴったりの柳刃包丁は、魚料理で大活躍。紺野さんは「切り口が洋包丁で切った時とはあまりにも違う。最初は生魚を切るときだけに使っていましたが、すぐ他のものにも使うようになりました」とコメント。
  • 和包丁
    POINT 02無駄のないフォルム
    「機能にこだわればこだわるほど道具はシンプルなデザインになっていく。フライパンもワイングラスも同じです」と紺野さん。この和包丁も無駄な装飾はゼロ。
  • 刺身を引く紺野 真さん
    POINT 03手入れのひと手間
    「ハガネの和包丁が手入れに手間がかかるのは事実。使ったら洗ってすぐ拭いて乾かしておかないと、15分もしたら錆びてきます。気を使わないと難しいですよね」と紺野さんが話す通り、和包丁の手入れには気を使います。その“ちょっと手のかかる感じ”も魅力です。

釜浅商店との出会い

 

紺野さんが最初に釜浅にご来店くださったのは、「uguisu」を2005年にオープンされる時のこと。その際には、鉄打出しではない“普通のフライパン”をご購入されたそう。

その後は鉄打出しのフライパンをオーダーメイドで製作させていただいたり、その他の道具に関してもご購入いただいたり。釜浅で行うイベントにもたびたびご出演いただいています。 

 

紺野 真さんと熊澤 大介

紺野さんと熊澤。紺野さんの貴重なご意見が、釜浅商店の商品開発の大きなヒントにもなっている。

 

紺野さん
最初に買ったのはフライパン類。でも、鉄打出しじゃなくて、普通の良さげなフライパンだったと思います。

熊澤
そうでした。その時には僕はまだ紺野さんと直接は面識がなかったんですよね。最初にきちんとお話ししたのは、10年くらい前に雑誌の企画で合羽橋に来られた時。

ちょうど現在のうちの看板商品「釜浅の鉄打出しフライパン」をやり始めたくらいのタイミングだったので、大々的に入口付近にスペースを構えていたのに目を留めていただいて。 

 

釜浅の鉄打出しフライパン

釜浅商店の看板商品のひとつ、「釜浅の鉄打出しフライパン」。紺野さんは「紙が挟まって店頭に並んでいたのを見て、いいなあと思って」、即オーダーしてくださったそう。

 

紺野さん
あのフライパンとの出会いはまさに衝撃的と言っていいと思うんですが、とにかくすごいな、と思って。確かその場でオーダーしたんです。まさに一目惚れですよね。その時に購入したのは23cmのものでしたっけ。

熊澤
あのフライパンは1820222426という2cm刻みで展開しているのですが、紺野さんは23cmが欲しい、と。1cmなんて僕らにしてみれば誤差の範囲くらいに思っちゃうけれど、その微妙な1cmの差によって使う油の量も変わるし、料理がものすごく違ってくるというお話をしていただいたのが衝撃的でした。

 紺野さんのリクエストで厚みも少し増しています。あと、底を少し窪ませましたよね。 

 

紺野 真さんと熊澤 大介が座って話している

道具の話を始めると、お互い止まらない二人。味や仕上がりに直接影響しない道具の使いやすさにも、細かなこだわりがある。


紺野さん
肉を焼く時にフットボールのように綺麗な丸みを帯びるように、少しだけ窪ませてもらったのですが、あれには五徳の上で安定しないという欠点もありましたね。それでもいまだに使っています。

そもそも、僕は鉄打出しフライパンしか使わないんですよ。くっつきそうなものの時も、クッキングペーパーに油を引いて、その上で10秒くらい焼いてからペーパーを取る、みたいな使い方をしています。

熊澤
そうなんですね。ありがたいし、嬉しいです。

 

紺野 真さん

 

紺野さん
例えば、ボウルによって使いやすさは違うから、自分にとって使い勝手のいいものを選びたいけれど、料理の味自体は間接的にしか変わらない。一方で、フライパンや庖丁って味に直結しているから、少々使いづらくても、美味しいものができる方を選びたいんです。

organ」をオープンした時にも最大サイズのフライパンを作ってもらったのですが、厚くしてもらっているから大きいだけじゃなく重くて、片手では持てない。これで腱鞘炎にもなりました(笑)。でも、「大変だけれどこれを使えば美味しいものができる」と思えば、そこは変えられないんです。


炭火焼ロースターで肉を焼いている

炭火焼ロースターもキッチンで毎日活躍している道具のひとつ。


熊澤
そういえば、羽釜や炭火焼ロースターもお使いいただいているんですよね。

紺野さん
羽釜は「organ」のオープンから12年した頃に買いました。うちでは海外のワイン生産者が来日した時にオフィシャルなディナー会を開催したりすることが多いのですが、その締めに同じ釜の飯を食うみたいなイメージで、必ず羽釜で炊いたご飯を出しているんです。

 もちろん、それだけではもったいないので、まかないのご飯を炊く時にも使っているんですけど、冷めてからもご飯が美味しいんですよね。炭火焼ロースターも肉を焼いたり、野菜を焼いたりするのに使っています。

 

和包丁を使うようになったわけ

 

紺野さんが和包丁を使うようになったのは、今から6年ほど前のこと。生魚のカルパッチョなどにはじまり、今ではどんな料理を作るのにも和包丁しか使わないそうです。

使いづらさはあれど、食材の断面の美しさ、舌触りの良さなどは、片刃の和包丁ならでは。きっかけは、今は亡き名シェフ愛用の和包丁にありました。

 

2本の和包丁

紺野さんが愛用する和包丁のうちの2本。錆びないよう、使い終わったらすぐに洗って水分を拭き取っておく。


紺野さん
和包丁を使うようになったきっかけは、亡くなってしまったパリのすごい料理人、関根拓君の影響です。彼とは個人的にも仲が良かったし、料理でも影響を受けた。彼が帰国してイベントをする時にはアシスタントで入ることもありました。

ある時、彼が参加した大阪のイベントでマグロかカツオを切ることがあったんですが、その時に彼が「真さん、俺の包丁使ってみてくださいよ」って言って貸してくれたのが、和包丁の刺身包丁で。実際、使ってみたら、切れるし、断面がとにかく綺麗なんですよ。それで、自分でも使ってみたいと思って、すぐ買ったんですよね。

熊澤
そうだったんですね。そのお話は初めて伺いました。


魚を切る紺野 真さん

魚を切る時には柳刃包丁は欠かせない。片刃の柳刃は断面の美しさが全く違うとのこと。

紺野さん
買ってみて、魚だけでなく肉も切ってみたら、肉もいい。これだけ違うともう後戻りはできないですよね。最初こそ洋包丁と併用していましたが、刺身包丁以外も使うようになり、今では洋包丁は一切使わなくなりました。

熊澤
そうですか。でも、鉄打出しのフライパン以上に使いにくさはあるかもしれないですよね。

 

パテ・アンクルートをカットしている

パテ・アンクルートの断面

 「パテ・アンクルート」のタルト生地も割れずに美しくカット。

紺野さん
フランス料理にはどちらかというと洋包丁の方が向いています。先端にアールがついているので、押し切りができるんですよね。和包丁にもしアールがついていたら万能なんじゃないかなと思うんです。

熊澤
確かに! それは実現できそうですよね。僕らも片刃の和包丁を日常使いのものにしたいなと思っていた。紺野さんからそういうお話を伺えると、僕らの考えていたことは間違っていなかったんだ、と確信が持てました。

実は、釜浅商店のパリのお店がうまくやってこられたのも関根さんのお陰なんです。僕たちにとっても重要な人でしたから、その人がきっかけで紺野さんが和包丁と出会われたと知って、なんだかすごく感慨深いものを感じます。

 

肉をカットする手元

焼き上げた肉をカットするのも柳刃包丁で。繊維を潰さないので余分な肉汁が出ない。

 

道具に求めるもの

 

「味に間接的に影響する道具は使い勝手優先で選びます」という紺野さん。「organ」の厨房にはそんな紺野さんが国内外で探した、使いやすい道具が並んでいます。それでも、紺野さんは「まだまだ改良したい道具があるんです(笑)」と話します。

 

紺野 真さんと熊澤 大介

潰して使いやすくしたトングを手に。こうしておくと食材に傷がつかないという利点もあるそう。


紺野さん
トングは間がぴったりくっついているとめちゃくちゃ使いやすいんですよ。だから、自分たちで潰してから使っています。使いやすい道具があれば、100円ショップでも買いだめしたりします。

ずっと探しているのが、今僕が使っているフランス製のターナー。幅が狭いタイプなんですが、めちゃくちゃ使い勝手がいいので、スタッフみんなが使いたがるんですよね。 

 

熊澤 大介の写真

 

熊澤
わ、勉強になります。こういうのはうちでも作れそうだなあ。ちょっとサイズを測らせてください。僕たちは毎日道具を売っているけれど、使っているわけではないから、紺野さんのようなお客様の声が本当にありがたいんです。

紺野さん
僕ら料理人にとっての釜浅の魅力は、オートクチュール的に対応してもらえることに尽きる。これからもよろしくお願いします。

 

肉料理の写真

organの店舗外観

organ

住所:東京都杉並区西荻南2-19-12 シーバース西萩1F
電話番号:03-5941-5388
営業時間:17:00~00:00(L.O.23:00)
定休日:月曜日/水曜日/第4火曜日

 

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    熊澤 大介
    釜浅商店4代目店主
    熊澤 大介/Daisuke Kumazawa
    1974年東京・浅草生まれ。アンティーク店「パンタグリュエル」(東京・恵比寿)、家具・カフェ「オーガニックデザイン」(東京・中目黒)を経て、家業である東京・合羽橋の釜浅商店に1999年入社。2004年より4代目店主に。創業103年の2011年に店のリブランディングを行う。良い理(ことわり)のある道具=「良理道具」を多くの人に伝えようと、道具たちとの幸福な出会いの場を国内外で提供する。