「紺野 真さん」が使う道具「和包丁」
- 味や仕上がりが全く違います。
- 和食の料理人の方を中心にご愛用いただいている和包丁。「両刃」の洋包丁に対し、「片刃」で、食材の繊維を傷つけずに美しい断面を作り出すのが和包丁の特徴です。釜浅商店では食材や調理方法に合わせて、さまざまな種類やサイズの和包丁を取り揃えています。紺野さんは柳刃、出刃、切付を使われています。
- 愛着メモ
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- POINT 01味や仕上がりに変化をもたらす切れ味
- 刺身を引くのにぴったりの柳刃包丁は、魚料理で大活躍。紺野さんは「切り口が洋包丁で切った時とはあまりにも違う。最初は生魚を切るときだけに使っていましたが、すぐ他のものにも使うようになりました」とコメント。
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- POINT 02無駄のないフォルム
- 「機能にこだわればこだわるほど道具はシンプルなデザインになっていく。フライパンもワイングラスも同じです」と紺野さん。この和包丁も無駄な装飾はゼロ。
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- POINT 03手入れのひと手間
- 「ハガネの和包丁が手入れに手間がかかるのは事実。使ったら洗ってすぐ拭いて乾かしておかないと、15分もしたら錆びてきます。気を使わないと難しいですよね」と紺野さんが話す通り、和包丁の手入れには気を使います。その“ちょっと手のかかる感じ”も魅力です。
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釜浅商店との出会い
紺野さんが最初に釜浅にご来店くださったのは、「uguisu」を2005年にオープンされる時のこと。その際には、鉄打出しではない“普通のフライパン”をご購入されたそう。
その後は鉄打出しのフライパンをオーダーメイドで製作させていただいたり、その他の道具に関してもご購入いただいたり。釜浅で行うイベントにもたびたびご出演いただいています。
紺野さん
最初に買ったのはフライパン類。でも、鉄打出しじゃなくて、普通の良さげなフライパンだったと思います。
熊澤
そうでした。その時には僕はまだ紺野さんと直接は面識がなかったんですよね。最初にきちんとお話ししたのは、10年くらい前に雑誌の企画で合羽橋に来られた時。
ちょうど現在のうちの看板商品「釜浅の鉄打出しフライパン」をやり始めたくらいのタイミングだったので、大々的に入口付近にスペースを構えていたのに目を留めていただいて。
紺野さん
あのフライパンとの出会いはまさに衝撃的と言っていいと思うんですが、とにかくすごいな、と思って。確かその場でオーダーしたんです。まさに一目惚れですよね。その時に購入したのは23cmのものでしたっけ。
熊澤
あのフライパンは18、20、22、24、26という2cm刻みで展開しているのですが、紺野さんは23cmが欲しい、と。1cmなんて僕らにしてみれば誤差の範囲くらいに思っちゃうけれど、その微妙な1cmの差によって使う油の量も変わるし、料理がものすごく違ってくるというお話をしていただいたのが衝撃的でした。
紺野さんのリクエストで厚みも少し増しています。あと、底を少し窪ませましたよね。
紺野さん
肉を焼く時にフットボールのように綺麗な丸みを帯びるように、少しだけ窪ませてもらったのですが、あれには五徳の上で安定しないという欠点もありましたね。それでもいまだに使っています。
そもそも、僕は鉄打出しフライパンしか使わないんですよ。くっつきそうなものの時も、クッキングペーパーに油を引いて、その上で10秒くらい焼いてからペーパーを取る、みたいな使い方をしています。
熊澤
そうなんですね。ありがたいし、嬉しいです。
紺野さん
例えば、ボウルによって使いやすさは違うから、自分にとって使い勝手のいいものを選びたいけれど、料理の味自体は間接的にしか変わらない。一方で、フライパンや庖丁って味に直結しているから、少々使いづらくても、美味しいものができる方を選びたいんです。
「organ」をオープンした時にも最大サイズのフライパンを作ってもらったのですが、厚くしてもらっているから大きいだけじゃなく重くて、片手では持てない。これで腱鞘炎にもなりました(笑)。でも、「大変だけれどこれを使えば美味しいものができる」と思えば、そこは変えられないんです。
熊澤
そういえば、羽釜や炭火焼ロースターもお使いいただいているんですよね。
紺野さん
羽釜は「organ」のオープンから1~2年した頃に買いました。うちでは海外のワイン生産者が来日した時にオフィシャルなディナー会を開催したりすることが多いのですが、その締めに“同じ釜の飯を食う”みたいなイメージで、必ず羽釜で炊いたご飯を出しているんです。
もちろん、それだけではもったいないので、まかないのご飯を炊く時にも使っているんですけど、冷めてからもご飯が美味しいんですよね。炭火焼ロースターも肉を焼いたり、野菜を焼いたりするのに使っています。
和包丁を使うようになったわけ
紺野さんが和包丁を使うようになったのは、今から6年ほど前のこと。生魚のカルパッチョなどにはじまり、今ではどんな料理を作るのにも和包丁しか使わないそうです。
使いづらさはあれど、食材の断面の美しさ、舌触りの良さなどは、片刃の和包丁ならでは。きっかけは、今は亡き名シェフ愛用の和包丁にありました。
紺野さん
和包丁を使うようになったきっかけは、亡くなってしまったパリのすごい料理人、関根拓君の影響です。彼とは個人的にも仲が良かったし、料理でも影響を受けた。彼が帰国してイベントをする時にはアシスタントで入ることもありました。
ある時、彼が参加した大阪のイベントでマグロかカツオを切ることがあったんですが、その時に彼が「真さん、俺の包丁使ってみてくださいよ」って言って貸してくれたのが、和包丁の刺身包丁で。実際、使ってみたら、切れるし、断面がとにかく綺麗なんですよ。それで、自分でも使ってみたいと思って、すぐ買ったんですよね。
熊澤
そうだったんですね。そのお話は初めて伺いました。
紺野さん
買ってみて、魚だけでなく肉も切ってみたら、肉もいい。これだけ違うともう後戻りはできないですよね。最初こそ洋包丁と併用していましたが、刺身包丁以外も使うようになり、今では洋包丁は一切使わなくなりました。
熊澤
そうですか。でも、鉄打出しのフライパン以上に使いにくさはあるかもしれないですよね。
紺野さん
フランス料理にはどちらかというと洋包丁の方が向いています。先端にアールがついているので、押し切りができるんですよね。和包丁にもしアールがついていたら万能なんじゃないかなと思うんです。
熊澤
確かに! それは実現できそうですよね。僕らも片刃の和包丁を日常使いのものにしたいなと思っていた。紺野さんからそういうお話を伺えると、僕らの考えていたことは間違っていなかったんだ、と確信が持てました。
実は、釜浅商店のパリのお店がうまくやってこられたのも関根さんのお陰なんです。僕たちにとっても重要な人でしたから、その人がきっかけで紺野さんが和包丁と出会われたと知って、なんだかすごく感慨深いものを感じます。
道具に求めるもの
「味に間接的に影響する道具は使い勝手優先で選びます」という紺野さん。「organ」の厨房にはそんな紺野さんが国内外で探した、使いやすい道具が並んでいます。それでも、紺野さんは「まだまだ改良したい道具があるんです(笑)」と話します。
紺野さん
トングは間がぴったりくっついているとめちゃくちゃ使いやすいんですよ。だから、自分たちで潰してから使っています。使いやすい道具があれば、100円ショップでも買いだめしたりします。
ずっと探しているのが、今僕が使っているフランス製のターナー。幅が狭いタイプなんですが、めちゃくちゃ使い勝手がいいので、スタッフみんなが使いたがるんですよね。
熊澤
わ、勉強になります。こういうのはうちでも作れそうだなあ。ちょっとサイズを測らせてください。僕たちは毎日道具を売っているけれど、使っているわけではないから、紺野さんのようなお客様の声が本当にありがたいんです。
紺野さん
僕ら料理人にとっての釜浅の魅力は、オートクチュール的に対応してもらえることに尽きる。これからもよろしくお願いします。
organ
住所:東京都杉並区西荻南2-19-12 シーバース西萩1F
電話番号:03-5941-5388
営業時間:17:00~00:00(L.O.23:00)
定休日:月曜日/水曜日/第4火曜日